宮古島 相続人50人

みなさま、こんにちは!
弁護士になって40年以上たちますが、いまだに経験したことのない相談が来て、あっと驚くような展開を見せることがあります。
今回の件も、相続人が全部で50人(これまでは8人が最高)もいて、人数の多さだけでも初めての経験でした。

相談の電話をかけてきたのは、宮古島(沖縄県)の司法書士Sさん。私の論文「判決による登記と登記義務者の住所変更」の「愛読者」で、これまで何件か登記問題について相談してくださった方です。
今回も明治時代の登記のままの土地について、今、相続人のXさんが来ているので、話を聞いて欲しいとのこと。

Xさんの話:
私のおじい(祖父・亡Aさん)は、島内に土地をいくつか所有しており、さとうきび畑や自宅として使っていましたが、私が先祖のお墓、位牌と共に相続しました。数年前に、私の自宅の通路部分がおじいの名義のままになっていることがわかり、S先生にお願いして、私の名義にしてもらいました。おじいの相続人は、今では全部で50人以上になっていて、S先生は戸籍謄本を200通以上とらねばならず、大変なご苦労をされたようです。これでおじいの相続は全部終わったと思っていました。

ところが先日、近所で土産物店を営んでいる知人Bさんから、「土産物店の隣の空き地を駐車場として使いたいと思って登記を調べたら、Xさんのおじいの名義になっていた。おじいの遺産は全部Xさんが相続したと聞いているので、この土地についても、Xさんの方でとりまとめて、私に売ってくれないか。」と頼まれました。

悪い話ではないので、登記簿をもってS先生のところに相談に来たのですが、「今回の件は、前の通路の件と違って、相続人全員の同意をもらうのは難しいでしょう。お礼をするにしても、ハンコ代を払うにしても50人分というと相当な額になります。取得時効の判決で行けたら良いのですが。」とのことでした。

S司法書士さんの話:
確かにこの土地は、Xさんのおじいの名義で明治時代に登記されています。おじいの遺産はXさんが全部相続したのですから、この土地についてもおじいの占有を相続し、時効により所有権を取得したという裁判ができるのではないでしょうか。戸籍類は当事務所で揃えますので、まずは時効の裁判が可能かどうか、現地に来て調査をしていただけませんか。

もうすぐサトウキビの刈り入れで忙しくなるので、その前に来て欲しいと言われ、急いで宿と飛行機を予約して、宮古島に飛びました。

Xさんの案内で、現地を見て、お墓やお位牌を確認し、親戚や近所の方々のお話を聞き、市役所の税務課で土地図面・写真等を取得し、法務局で周辺の土地の古い登記簿(移記閉鎖)をとり、一通りの調査をしました。
その結果、時効の主張ができそうだということで、S司法書士さんや近所の方々も交えて、泡盛(コロナのせいでオトーリは禁止でしたが)、ゴーヤチャンプルー、やぎ汁、宮古そばで前祝いの大宴会。

翌日朝一番に、S司法書士さんから電話が入り、「戸籍をとったら、意外なことがわかった。Xさんと一緒に来て欲しい。」と言われて、すぐに事務所へ。

見せられたのは、その土地の所有名義人の戸籍。おじいと同じ名前で、明治生まれの昭和死亡、住所・本籍(明治時代も今も住所・本籍が同じ)も全く一緒・・・これって、おじいの戸籍ですよね、何が問題?!・・・と思ってよくよくみたら、住所・本籍の番地が違っていました。おじいの方は、字○○五一八番地、所有名義人は字○○五一九番地。

私「広いお宅では、玄関と勝手口とで住所が違うこともありますよね。住所が一番地違うだけなら、同一人物ではありませんか。」

S「いえいえ、生年月日も死亡年月日も違いますし、それぞれ違う家族があります。そもそもこの所有名義人には子供がいないので、孫がいるはずがありません。宮古島では同姓同名の他人というのはよくあるのですが、おじいの名前は珍しいものですし、隣同士というのは、はじめてです。」

X「おじいの家の隣に、同じ年頃の同姓同名の人が住んでいたということですか。そんな話、私は、聞いたことありませんけど。」と、Xさんもびっくり。

しかし、登記簿、戸籍を見る限り、おじいと所有名義人は同姓同名の別人です。結局、この土地はおじいの土地ではなかったので、Xさんが相続することはありませんし、Xさん本人が使っていた土地ではないので、時効取得の可能性はない、という結論になりました。
残念ながら、これにて調査終了。

この結果については、XさんからBさんに伝えるそうです。Bさんからの相談があれば、乗りかかった船ですから、引きつづき所有者の相続人を探して、買取交渉のお手伝いをしたい、また宮古島に飛んで来たいと思っています。でも、戸籍をみると、所有者さんにはおじいと同世代の兄弟姉妹が5人いましたから、その相続人は50人×5・・・250人!!!になるかもしれません。

【投稿者:辻 千晶】

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