Twitter(ツイッター)の「スクショ引用」と著作権侵害

はじめに

弁護士の佐藤です。
皆さん、身近な法律といえば何を思い浮かべるでしょうか。
インターネットが普及した現在、自宅のパソコンだけではなく、スマートフォンやタブレット端末からも気軽にインターネットを利用することができます。また、近年では、様々なSNSが登場しており、比較的若い世代を中心として利用者も増えています。

SNSには、様々なイラストや写真・動画などが投稿されていますが、投稿者以外の人が作成又は撮影したイラストなどを作成者や撮影者の同意を得ることなく投稿することは、原則として作成者や撮影者の著作権を侵害する行為です。そのため、現在では、著作権法も身近な法律の一つだと思います。

ところで、著作権法に関しては昨年12月に興味深い判決が出ました。それが東京地方裁判所令和3年12月10日判決です。
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/826/090826_hanrei.pdf

これは、著名なSNSの一つであるTwitter(ツイッター)において、いわゆる「スクショ引用」が著作権法の「引用」に当たるかどうかが問題となった事案です。
事案の概要は、次のとおりです。

ツイッター利用者であるA氏がツイッターに投稿をしたところ、別のツイッター利用者であるB氏及びC氏がA氏のした投稿をスクリーンショット(「スクショ」)画像として保存し、これらの画像を自身の投稿に添付して投稿しました。

これについて、A氏が、プロバイダである株式会社NTTドコモに対し、B氏・C氏の行為は自身の著作権(複製権及び公衆送信権)を侵害するものであるとして、B氏・C氏に関する発信者情報を開示するよう求めたというものです。

NTTドコモ側は、①A氏がした投稿は著作物には当たらない、②仮にA氏のした投稿が著作物であるとしても、B氏・C氏によるスクショ画像の添付は著作権法上の「引用」(32条1項)に当たるから、B氏・C氏の行為はA氏の著作権を侵害するものではない、として争いました(NTTドコモ側の反論は他にもありますが、著作権法に関する部分に絞っています。)。

裁判所の判断は?

このような当事者の主張に対して、裁判所は、A氏のした投稿は著作物に当たるという判断をした上で、B氏・C氏の行為は著作権法上の「引用」には当たらないとして、A氏の請求を認めました。
「引用」の成否に関する裁判所の判断のポイントは、次のとおりです。

① 他人の著作物は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われる場合には、これを引用して利用することができる(著作権法32条1項)

② ツイッターの規約は、ツイッター上のコンテンツの複製、修正、これに基づく二次的著作物の作成、配信等をする場合には、ツイッターが提供するインターフェース及び手順を使用しなければならないと規定しており、ツイッターは他人のコンテンツを引用する手順として「引用ツイート」という方法を設けている。

B氏・C氏のしたスクショ画像の添付は引用ツイートではないから、ツイッターの規約に違反している。
したがって、B氏・C氏のした投稿は「公正な慣行」に合致するとはいえない。

③ B氏・C氏がした投稿と、これに占めるA氏の投稿のスクショ画像を比較すると、スクショ画像が量的にも質的にも、明らかに主たる部分を構成しているから、これを引用することが「引用の目的上正当な範囲内」であるということもできない。

著作権法上の「引用」とは?

本判決の説示は、かなりインパクトがあります。
というのも、ツイッターでは日常的にスクショ引用が行われており、スクショ引用そのものが「公正な慣行に合致しない」とすると、ツイッターで行われているスクショ引用が全て著作権侵害になってしまうおそれがあるからです。

また、本判決の説示には理論的な疑問もあります。
判例やそれに続く多くの裁判例は、著作権法上の「引用」について、「公正な慣行」や「引用の目的上正当な範囲内」という文言を、「明瞭区別性」と「主従関係」という要素に置き換えてその成否を検討してきました。

明瞭区別性というのは、例えば引用部分をカギ括弧で示すなど、引用する側の著作物と引用される著作物が明確に区別できることをいいます。また、主従関係というのは、量的又は質的に見て、引用する著作物が「主」であり、引用される著作物が「従」であることをいいます(なお、近年では、明瞭区別性・主従関係に触れることなく、「公正な慣行」に合致しているか、「引用の目的上正当な範囲内」といえるか、といった観点から引用の成否を判断している裁判例もあります。)。

本判決は、いわゆるスクショ引用は「公正な慣行」に合致しないと説示していますが、それに続けてB氏・C氏のした投稿はA氏の投稿であるスクショ画像の方が主であるから「引用の目的上正当な範囲内」であるともいえないと説示しています。

まず、スクショ引用は「公正な慣行」に合致しない以上、明瞭区別性や主従関係などを検討するまでもなく、引用には該当しないはずです。しかし、本判決は、「公正な慣行」に合致しないという説示に続けて主従関係の検討をしており、「公正な慣行」・「引用の目的上正当な範囲内」と明瞭区別性・主従関係をどのように整理しているのかが必ずしも明確ではありません。

次に、仮にツイッターの規約に従った引用ツイートが「『公正な慣行』に合致する」ものであるとしても、その規約に従わないことが直ちに「公正な慣行に合致しないといえるのかも疑問です。

そもそも、ツイッターで他人の投稿を利用する方法としては、①引用ツイート、②元の投稿をコピーして、それを自身の投稿に貼り付ける(いわゆる「コピペ」)、③元の投稿をスクショ画像として保存し、その画像を自身の投稿に貼り付ける(「スクショ引用」)があります。しかし、引用ツイートは、公開アカウント(誰でもその投稿を閲読することのできるアカウント)でしか使えない方法です。非公開アカウント(投稿者[ユーザー]がその投稿を閲読することのできる人を制限しているアカウント。アカウント名の末尾に南京錠のマークが表示されるので、「鍵付き」・「鍵アカ」と呼ばれることもあります。)の場合、その投稿を利用(引用)するためには、元の投稿をコピペするか、スクショ引用するしかありません。

本判決の趣旨によれば、非公開アカウントの投稿をスクショ引用した場合、その行為が著作権法上の「引用」に当たる余地はないようにも思われます。

果たして、このような結論は妥当なのでしょうか。また、「非公開アカウント」による投稿であることは、「引用」の成否に影響を与えるのでしょうか。

通常、非公開アカウントの投稿者は、自身の投稿がリツイートや引用ツイートによって拡散することを想定していないと思われます。むしろ、自身のした投稿が拡散することを積極的に拒否する意図でアカウントを非公開にしていることもあるかもしれません。

このような非公開アカウントの投稿者(ユーザー)の意思や期待を尊重するのであれば、「非公開アカウントによる投稿については著作権法上の『引用』が成立する余地はない」というのも一つの考え方かもしれません。

しかし、一般に、著作物に引用を禁止する旨の記載(「禁引用」や「禁転載」など)があったとしても、そのような一方的な表示は、契約関係にない一般の引用者に対しては、法的には意味のない記載であると理解されています。「引用」は、著作権法が認めている重要な権利の制限であり、著作権者の一方的な意思表示によりこれを禁止することはできないと考えられているからです。

このような「引用」に関する一般的な理解とのバランスからすれば、非公開アカウントによる投稿をスクショ引用する行為について、「非公開アカウント」であることを理由に、およそ「引用」を認めないという結論は不当であると思います。明瞭区別性や主従関係の要件が満たされる以上(あるいは、その他の「引用」の考慮要素を満たす以上)、非公開アカウントによる投稿については、スクショ引用も著作権法上の「引用」に当たる余地があるというのが妥当な結論であると思います。

その上で、スクショ引用について、引用される投稿が「公開アカウント」によるものであるか、「非公開アカウント」によるものであるかによって、「引用」に当たるか否かの結論が異なる理由もないので(むしろ、非公開アカウントによる投稿に比べて、公開アカウントによる投稿については広く「引用」を認めるべきという立場もあると思います。)、公開アカウントによる投稿をスクショ引用する行為についても、「引用」に当たる場合があると整理するのが妥当な結論のように思われます。

本判決については、NTTドコモ側が控訴したという報道もありますので、高等裁判所の判断が出た際には、改めて検討したいと思います。

最後になりましたが、本投稿の中で意見・論評にわたる部分については、投稿者個人の意見であることを申し添えます。

【投稿者:佐藤 寧】

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